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座る: 簡単なようでとても奥深い動作
日本人は古くから『座る』ことに対して多大なる敬意を持って生活して来ました。
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一つの単語でこれだけの座り方を表すことが出来るのは、古くから日本の人々が座ることを大切にしてきたからです。おそらく他の言語では座ることに対してこれほどの語彙はないと思います。他にも驚くほどたくさんの言葉があります。ご興味のある方は、こちらをご参照下さい。その語彙の多さには本当に驚かされます。日本人が座ることを大切にしてきた証でしょう。
座るバリエーションが少なくなっている?!
赤ちゃんはハイハイが出来るようになると同時
に、色々な座り方も出来るようになります。これは脚の力が無いために必然的に安定出来る体のポジションを模索する為に出来るようになります。やがて、しゃがんだり立ったり出来るようになりますが、この時期とても重要で色々な座り方をすることで背中やお腹の筋肉の使い方や動き、バランス、コーディネーションを覚えていきます。
このような時代的な風潮は子供にも大きく影響を及ぼしているようです。しっかりとしたデータははありませんが、膝が「X」字のように内反しているこどものを見る機会が多いのような気がします。子供が小さい頃から個人的な机が与えられ、じっと席についているのが行儀の良い事として教わります。しかし、行儀良く座り続けることは、時代的な背景も手伝って、かえって成長期の子供の動きを制限し発育に悪影響を与えているかもしれません。また最近よく聞くようになった股関節周辺のケガ(FAI;Femoral-acetabular Impingement Syndrome) なども、こういった座ることに対する意識の低下の影響があるのではないでしょうか?
“Sitting is killing you!” 『悪』としてしまった欧米の『座る』意識
最近のアメリカの研究では、『座る』ことは体幹やお尻の筋肉の活動を低下させるだけでなく、腰椎間の圧迫を高めると結論づけています。ある研究によるとベンチなどに座ったまま運動することにより、腹直筋で81%、外腹斜筋で58%、脊柱起立筋で18%の筋肉活動が低下したことを筋電図で確認したことを報告しています。
この研究結果はしっかりと受け止めなければならないと思っています。確かにステーショナリーバイクやフィットネスジムのベンチでの運動は、立位での運動と比べると研究結果のように、腹筋やお尻の筋肉の活動は少なくなると思います。しかし、体の発育過程を追ってみると、本来『座る』ことは体を安定させるために腹筋やお尻の筋肉をしっかり活動させなければいけないはずです。
似て非なる者: 『椅子座り』 vs. 『床座り』
この研究でも分かるように『座る』ことが『悪』とされるのは100%『座る』ことに対する意識の違いだと考えています。椅子に座った状態とあぐらや横座りの状態では股関節の筋肉の活動は全くと言って違います。『欧米の椅子に座る』は、お腹や臀部の筋肉の活動の低下を太ももの表裏の筋肉(大腿四頭筋やハムストリングス)で補うようになっているのです。
私の知っているアメリカ人の多くはしゃがむことが出来ません。生活の中で椅子よりも下に腰を下ろす必要がないのです。それに伴い腰や股関節の動く範囲も狭くなり筋力も低下傾向です。椅子に座り前後の面(矢上面)で体を安定させるには、太ももの表や裏(大腿四頭筋やハムストリングス)の大きな筋肉が最優先されます。一方、『あぐら』や『横座り』などの床座では、これらの太ももの表裏筋肉が捻られた状態で上手く働きません。この状態では必然的に安定を確保する為にお尻やお腹の筋肉を使わなければなりません。
もっと座布団での教育を!
ここまでお読み頂いて、バランス良く座るということが実は難しいということを少しはご理解頂けたと思います。単純に考えて、脚の力をかりず、左右のお尻の尖った骨(坐骨)2つでバランスをとっている状態(現実にはなかなか難しいと思いますが…)で、バランスを保つには、姿勢をしっかり正し、腹筋と背中の筋肉バランスよく支え合わなければなりません。
成長過程では、部活や体育などで体を動かすことももちろん大切ですが、座った状態で姿勢良く体をコーディネートし何かの作業をすることも、実はとても難しいことだということも、しっかりと伝えて行かなければと思っています。このブログをお読み頂いて『座る』ことは実はとても複雑動作であるということと、これを機会に座ることを今よりももっと大切にして頂けるとありがたいです。
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