『「首から下」で考えなさい』 シアン・バイロック

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「首から下」で考えなさい
How the Body Knows Its Mind: The Surprising Power of the Physical Environment to Influence How You Think and Feel (English Edition)

最近になって脳の働きと運動の役割は密接な関係があるということが分かって来ていますが、運動と思考の機能はお互いを切磋琢磨しているという事がとても分かりやすく教えてくれる一冊です。

シアン・バイロック博士は現シカゴ大学の心理学部教授であり、ミシガン州立大学で身体運動学と心理学の博士号を取得した人間の行動に影響する認知科学の第一人者です。彼女の影響を受けた理論は次の通りであり、臨床的な内容だけでなく、生物学的にも歴史上の事柄に当てはめてもとてもしっくり内容です。

“脳は現実的に体験していることと、過去の記憶との間に境界線をはっきりとしいていない。つまり、ハードウェアである脳は、思考と行動はっきり区別していないのだ。だから、体とまわりの環境を利用して、脳の働きに磨きをかけることもできるだろう….” 

「体の動きは、知識を積み重ねる土台の役割をしている。」 by ジャン・ピアジェ

“正常な発育のよちよち歩きの子どもなら、1日にフットボールのグランド1周くらい歩き、1時間に平均17回転倒しながら、たくさんの経験を積んで、世の中を知る。ハイハイは飛ばして早く歩かせたいという若いママもいるが、ハイハイには無視できない利点がたくさんある。赤ん坊の肉体、精神、それぞれの発達に大きな影響を与えるのだ。”

ハイハイを中心とした四つ這いで姿勢を保った状態での運動は本当に侮れません。ハイハイは動作の土台と言っても過言ではありませんが、自分も過去によく飽きもせずあの状態で運動を続けられるなとつくづく感じることがます。 また、手先が器用だと運動野が発達し、音楽や算数などの分野に好影響を与えることが分かっています。

“心理学者のブライアン・バターワースは数学教育者としても有名だが、彼はこう言っている―――指で数字を上手に表せないと、脳にも伝わりにくい。まさにそのとおりで、指が器用でない子どもたちは数学が苦手なようだ。指はミステリアスな預言者である。五歳児に目を閉じてどの指をさわられているかを当てさせてみると、当てた子は小学校に入ってから算数が得意となるケースが多い。幼稚園で指をつかった作業が得意だと小学校でも算数で苦労しない。その反対に、指づかいが不器用だと計算が苦手で数字がなかなか理解できない。”

理解するために体をつかう

“言葉を理解するということは、頭の中で行動をシミュレーションするということである。そのとき、私たちは実際に行動するときや、社会を観察するときにつかう脳のシステムを使う。言葉を聞くと、無意識に脳の運動をコントロールする部分を動かすのだ。また私たちが運動しているとき、たとえば「腕を右回りに回している」ときに「ジェシー、テレビのボリュームを上げて」というフレーズを読むと、内容を理解しやすい….. 私たちの脳の運動システムがダウンすると、言語―――とくに運動を表す言語―――を理解する能力もまた、衰えてしまうということだ。”

やはり言語は無意識に脳が反応している部分が多く、その反応に脳の運動野を中心とした神経回路がしっかり多く関与していることになります。“This is a pen.”に始まっていた日本の英語教育が記憶を中心としたもので、機能的な教育にはならなかったのもよく理解出来ますね。

一歩先の結果の予測を可能にする『順モデル』とは…

“経験を積んだ脳は相手の動きを読み、その動きを理解する。そしてそれに応じて体に信号を送り、相手が次の動きに出る前に自分のとるべき行動を即決する。すぐれたプレーヤーがつねに一歩先に行っているように見えるのは、このためだった。彼らの脳は実際に行動に移る前に。指令を出している。

「あなたが微笑むと世界中があなたと一緒に微笑む」

Funniest smiling Animals-One more reason to smile

“脳の感情を司る部分は、私たちがどうリアクションすればいいのか体に合図を送る。だが、その経路は一方通行ではなく、体を動かす筋肉と表情もまた、脳に合図を送り返し、私たちの感情をさらに強めている。” 

脳科学会でも重要な発見とされるミラーニューロンは脳内で、他人と自信の区別なく活動電位を発生させる神経細胞です。文字通り「鏡」のように反応することから名付けられましたが、共感能力や模倣、言語能力の発達に関係深い神経細胞だと言われています。まだまだ研究分かっていないところが多い神経細胞ですが、人や生物が他との関わりあいを持つうえで大変重要であることは間違えありません。体を動かす事によってその能力を高めることができる

心と体のバランスとTPJ

TPJ(側頭頭頂接合部)で、自分自身の考えと他人の考えをきちんと分けて考える。TPJは、私たちのさまざまな感覚から送られてくる情報をキャッチし、体各部の情報と一緒にまとめて私たちが総合的にどんなふうに感じているかを表す働きをしている。体のモニターの役目をしているので、この部分が正常に働いていれば私たちの心は安定し、自分の考え、行動、気持ちは他人と違うのだとはっきり理解できる。誰が見ても心のバランスがよくとれているという人は、このTPJの働きが非常に良い人である。”

体が「やさしい社会」をつくる

“体と感情は切り離しては考えられない。寂しい気持ちが体を冷たくするのも、心の痛みを体の痛みと同じ脳神経回路で感じるのも、また、モラルに反する犯罪に対して体が嫌悪を感じるのも、みんな心と体がつながっているからなのだ。”

 このサブタイトル“体が「やさしい社会」をつくる”はしびれますね。からだと脳の発達が共感力の向上させやさしい社会を作る礎となる。太古より文武両道の素晴らしさが言い伝えられていますが、この所以は人間の心と体のバランスをより向上させるために常に精進して来たことが伺えます。近年はより科学的に脳内部の活動がわかるようになっています、心と体の働きををより効果的にバランスをとることが出来る条件がそろっており「やさしい社会」を出来る条件がそろっています。体とまわりの環境を利用して、脳の働きに磨きをかけることにより「やさしい社会」を作れるのではないでしょうか。

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