にんにくの科学

からだと食べ物

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にんにくの栽培は7000年前には始まっていた

  • 古代エジプトのピラミッドの建設時は労働者は毎日にんにくや玉ねぎを食べていた
  • 古代ギリシアでもオリンピックの競技者はにんにくを食べていた
  • ドラキュラの嫌いなものとして有名なにんにくは魔女や呪いから人々を守るものとされてきた
  • 中国やインドでも古代から消化器や呼吸器の殺菌のために伝統医療の薬として用いられてきた

にんにくの成分で現在科学的に注目されているもの

作り出された色々な物質が注目されているが、にんにくの本当のバックボーンは酵素であるアリナーゼの力にある。ニンニクや玉ねぎを刻んだり、おろしたりすると傷ついた細胞がアリナーゼという酵素を分泌し、アリインアリシンに変化させる。同時にジアリルジサンファイドという抗菌性の油分や、ビニルジチインと言うフィトケミカル生成。これらの物質は安定したものでないため、やがて失われる。

allicin
SAC (S-allyl-L-cysteine) アミノ酸システインが ニンニクの中で生成され硫黄化したもの。コレステロール値を下げるなどの働きがある。
アリイン 天然のにんにくに含まれるアミノ酸。SACから変化しこの時点では無味無臭だが、すり下ろしたり刻んだりすると、アリナーゼの働きによりにんにく臭を発する。
アリナーゼアリインをアリシンに変化させる酵素。にんにくの細胞が破壊されるとこの酵素の働きにより、アリシン・ジアリルジサンファイド、ビニルジインなどの物質が生成される。加熱すると働きや匂いが減少。

酵素アリナーゼによって作られる物質

アリシンは、にんにくやねぎなどネギ属の植物の硫黄に似たような香りに含まれている成分。これらの植物が害虫から身を守る為に備えた成分だと考えられており、玉ねぎを切ったときに涙が出るのも納得できる。 アホエンやアリチアミンはアリシンが生成された後に油分やビタミンB1にくっついて出来た化合物である。下記の硫黄化合物の他にサポニンフラボノイドなどの成分含有することにも注目すべきである。

アリシン (Allicin) アリインがアリナーゼの作用によって生成される硫黄性化合物。反応性が高く刺激があり不安定な物質。抗菌力を有する。
ジアリルジスルフィド  (Diallyl disulfide) 
ジアリルテトラスルフィド (Diallyl trisulfide)
ともにアリシンが分解してできるニンニク油の成分。にんにくアレルギーの原因となる物質でもあるが、抗菌作用や抗酸化作用がある。
ビニルジチイン アリシンの分解によってできるフィトケミカルで心臓血管病予防や抗酸化作用がある
アホエン アリシンが加熱されて生じる物質。抗血小板作用・抗菌作用がある。
アリチアミン アリシンとビタミンB1が結合してできる物質。

アリシンを含むネギ属の植物

  • にんにく
  • 玉ねぎ
  • ねぎ
  • らっきょう
  • にら
  • エシャロット
  • リーキ

にんにくのもたらす健康への効果は歴史を振り返ってもたくさん語られてきている。抗菌や抗酸化、疲労回復作用に注目されているが、現在科学的に証明されているのは、血圧のコントロールやコレステロール値の抑制など心臓血管病に関するものが多い。

心臓血管系への効果

1.総コレステロール、LDLコレステロール抑制​

  • 2013年の研究​1​では平均して総コレステロールの値を 17±6 mg/dl、LDLコレステロールの値を 9± 6 mg/dLも改善する事に成功。8%の血清コレステロールの改善は50歳の年齢で38%の心臓発作リスクの減少に値するとのこと。
  • 2014年のニンニクと心臓血管病の研究​2​でも同様に総コレステロールとLDLコレステロール、血圧の低下を示す
  • 2018年に発表された1981~2016年の研究を対象としたメタアナリシス​3​でも、総コレステロールとLDLコレステロールの低下を報告
  • 同じく2018年に発表された研究​4​では、総コレステロール値、LDLコレステロール値だけではなく、空腹時血糖値やHbA1cの値の改善も見られている

2.収縮期血圧の低下

  • 2013年に行われたにんにくエキスを使って行われた研究​5​では、12週間で収縮期血圧(上の血圧) 11.8±5.4 mm Hg の低下
  • 同年に行われたパキスタンの研究​6​では210人の患者を7つのグループに分け、それぞれ内容量の異なるニンニクタブレットを24週摂取を行ったところ、かなりの割合で血圧低下を示すしている

その他の効果

  • にんにくの消費とガンの発症は反比例する​7​
  • にんにくを食べると筋肉痛が軽減​5​
  • にんにくで炎症物質(CRP, TNF, IL-6)が軽減​8​

どのように食べるのが良いのか?

1. とにかく細かく刻め、可能ならすりおろせ!

にんにく、玉ねぎ、ニラなどに含まれるアリシンが生成されるのは刻んだり、おろしたりと細胞を傷つけたとき。 しかし不安定な物質で10分ほどでその効力が徐々に減少する。食時の直前に刻んだり、おろしたりという作業を行なうことでしっかりと摂取しよう!

2. 出来れば生で、しかし刺激物であることは忘れずに!

ジアリルジスルフィドはにんにくアレルギーの原因の物質でもある。大量摂取はお腹をこわす原因ともなり兼ねないので注意。生食があまり得意ではないという方はオイルで軽く温めるなどして工夫して摂取しよう。チューブ入りのにんにく、パックで売っている刻みネギ、アメ色の玉ねぎでは風味はあってもあまり効果がない事を再認識。

2020年に22812人を対象に行われた研究​9​では、生のにんにくを頻繁に摂取する人ほど高血圧症予備軍(上の血圧120–139 mmHg、下の血圧80–89 mmHg)との関係は低くなると。これはにんにくに限って言えることであり、他のねぎ属の植物の摂取では高血圧症予備軍との関係は見ることが出来なかった。

3. ビタミンB1と一緒に!

ビタミンB1が多いのは豚肉、大豆、玄米、そばなど。アリシンとビタミンB1の結合したアリチアミンは1950年頃、日本で開発された化合物。体内でのビタミンB1の吸収率が向上すると言うことだが、海外の文献では新しいものは見当たらない。

参考文献

  1. 1.
    Ried K, Toben C, Fakler P. Effect of garlic on serum lipids: an updated meta-analysis. Nutr Rev. March 2013:282-299. doi:10.1111/nure.12012
  2. 2.
    Kwak JS, Kim JY, Paek JE, et al. Garlic powder intake and cardiovascular risk factors: a meta-analysis of randomized controlled clinical trials. Nutr Res Pract. 2014:644. doi:10.4162/nrp.2014.8.6.644
  3. 3.
    Sun Y-E, Wang W, Qin J. Anti-hyperlipidemia of garlic by reducing the level of total cholesterol and low-density lipoprotein. Medicine. May 2018:e0255. doi:10.1097/md.0000000000010255
  4. 4.
    Shabani E, Sayemiri K, Mohammadpour M. The effect of garlic on lipid profile and glucose parameters in diabetic patients: A systematic review and meta-analysis. Primary Care Diabetes. February 2019:28-42. doi:10.1016/j.pcd.2018.07.007
  5. 5.
    Su Q-S, Tian Y, Zhang J-G, Zhang H. Effects of allicin supplementation on plasma markers of exercise-induced muscle damage, IL-6 and antioxidant capacity. Eur J Appl Physiol. February 2008:275-283. doi:10.1007/s00421-008-0699-5
  6. 6.
    Ashraf R, Khan R, Ashraf I, Qureshi A. Effects of Allium sativum (garlic) on systolic and diastolic blood pressure in patients with essential hypertension. Pak J Pharm Sci. 2013;26(5):859-863. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24035939.
  7. 7.
    Azadbakht L, Miraghajani M, Rafie N, Hajianfar H, Larijani B. Aged garlic and cancer: A systematic review. Int J Prev Med. 2018:84. doi:10.4103/ijpvm.ijpvm_437_17
  8. 8.
    Darooghegi Mofrad M, Milajerdi A, Koohdani F, Surkan PJ, Azadbakht L. Garlic Supplementation Reduces Circulating C-reactive Protein, Tumor Necrosis Factor, and Interleukin-6 in Adults: A Systematic Review and Meta-analysis of Randomized Controlled Trials. The Journal of Nutrition. April 2019:605-618. doi:10.1093/jn/nxy310
  9. 9.
    Zhang S, Liu M, Wang Y, et al. Raw garlic consumption is inversely associated with prehypertension in a large-scale adult population. J Hum Hypertens. September 2019:59-67. doi:10.1038/s41371-019-0257-0

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